コラム

ロッカーたちに贈るマイナークラシック Vol. 3

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みなさん、こんにちは!SAORIN☆です。

4回目となる今回のコラムは冬の初めに出す予定でいたのですが、あっという間に立春もバレンタインデーも過ぎ、おまけに例年より2週間も早く春一番が吹いてしまって…春はもうすぐそこまで来ていますね。でもせっかくなので、今回は予告通り「秋」をテーマにした交響曲をご紹介することにしました。

今回ご紹介する交響曲は、スイスの作曲家ヨーゼフ・ヨアヒム・ラフ(Joseph Joachim Raff)の交響曲第10番ヘ短調「秋に」。(以下交響曲第10番と表記します)
ラフはカヴァティーナやアルフレッド王という作品で有名な作曲家とされていますが、交響曲も第11番まで残しています。第11番のほうが数年早く完成しているので、事実上第10番が最後の交響曲なんですけどね。

第8番が「春の響き」、第9番が「夏に」、第10番が「秋に」、第11番が「冬」と、連続した4つの交響曲が四季シリーズとなっているのが興味深いところですが、今回は四季シリーズの中でも特に抒情的で美しい旋律が印象的な第10番を取り上げることにしました。最後までお付き合いいただけたらうれしいです。

1822年5月27日、ラフはスイスのチューリッヒにほど近いラッヘンという街で生まれました。
教師をしていた父親から初等教育の手ほどきを受け、その後シュヴィッツにあるイェズイト・ギムナジウムという学校での教職課程期間を経て教員になりました。
幼少時代から貧困に苦しんだラフですが、ギムナジウム在学中はラテン語、ドイツ語、数学で賞を取るほど優秀な成績を収めていたといいます。
その一方で、ラフは子どもながらすでにピアニスト、バイオリニスト、そしてオルガニストとしての才能に恵まれており、日曜日になるとヌオレンという温泉地で開催されるコンサートで演奏していました。



ヨアヒム・ラフ 出典:Wikipedia

ラフは教員として働きながら、音楽の勉強にも熱心に打ち込んでいました。
転機となったのは、チューリッヒ在住の若手作曲家であり指揮者でもあるフランツ・アプトの勧めで自らの最初期のピアノ作品をメンデルスゾーンに送ったことです。
ラフの作品を気に入ったメンデルスゾーンは自分の作品を出版しているブライトコフ・ウント・へーテルという出版社に推薦し、作品を褒め称えるレビューまで書いてくれたのでした。この経験で自信を持ったラフは、なんと1844年に教員を辞めてチューリッヒに引っ越し、作曲家としての活動を始めてしまったのです。(結局貧困に喘ぐことに変わりはないんですけどね)

そして1845年、ラフはかの有名な作曲家リストとの運命的な出会いを果たします。
リストの演奏を聴くために土砂降りの中80kmもの道のりを歩いてバーゼルを訪れたにもかかわらず(本当に貧乏だったんだな…)、チケットは売り切れ。
落胆しているラフに気づいたリストの秘書が事情をリスト本人に伝えてくれたために、無事に会場で演奏を聴くことができたのでした。
そして、ラフはそのままリストの演奏旅行に帯同。
その後、ラフはリストの計らいでケルンにある音楽店で働くことになります。

1849年の終わり頃、ラフはワイマールに呼び寄せられ、リストの助手になります。
リストはラフの作曲家人生における非常に重要なキーパーソンであり、ラフは1856年に独立を果たすまでリストの助手を務めました。
その仕事内容は、秘書、写譜家、雑用係と多岐にわたっています。(リストって人使い荒かったのかな…いや、それだけラフが有能だったということかもしれませんが^^;)

ラフはリストの作品のオーケストレーション(いわゆる管弦楽法のことで、オーケストラ用に編曲すること)を手掛けていましたが、それらから判断する限り、ラフがかなり高い技術を持っていたことは間違いないと言われています。
最終的にはリストとの関係悪化が原因で独立に至るので、なんだか残念なんですけどね。

独立後、ラフはヴィースバーデンに移り、作曲や指導に集中することができるようになりました。
そして、ドリス・ゲナストという女性と結婚します。
1877年にはフランクフルトにあるホッホ音楽院のディレクターに就任し、シューマンの妻であるクララをピアノ教師として呼び寄せることに成功しました。

ホッホ音楽院が設立された1878年当時、スタッフとして雇われた女性はクララだけでした。
そして、どの講座も当然のように女性は対象外でした。
それがなんと2年後には女性作曲家のための講座が開かれることになったのです。
女性向け講座が設置されたのは、当時のドイツでは初めてのことでした。

ラフは1882年に60歳で亡くなるまで、フランクフルトに身を置きました。

交響曲第10番は、前回の番外編コラムでご紹介した仮面舞踏会のコンドラシン盤に続く「買い直しましたシリーズ」の1つです。
社会人になってから、いわゆるジャケ買いをして大正解だったのがこのCDでした。
ジャケットの森林公園のような風景画に目を奪われて、思わず手を伸ばしたことは今でもよく覚えています。
比較的自然に恵まれた地方の田舎でのんびりと育ち、就職と同時に慣れない都会に出てきたばかりだった私には、きっと大自然の癒しが必要だったのでしょう…。



ヨアヒム・ラフ 交響曲第10番 出典:Amazon. co. jp

加えて、帯に記された紹介文の中の「彼の音楽には常にどこか楽天的なところがあり」「作曲者の苦悩の投影だけが芸術音楽ではないのです!」というフレーズも購入の決め手になりました。
自分の感覚に自信が持てず、自分が何を考え、何を望んでいる人間なのかが自分でもわからず、何に対しても楽観視なんてできずにいた当時の私にとっては、一番刺さる言葉だったのかもしれません。(今だって揺るぎない自信を持っているわけではありませんが、当時に比べれば随分と図太くしぶとく前向きに生きていると思います^^)

ところで…交響曲の基本的な構成についてはVol. 2(http://www.電脳音楽塾.jp/?p=2147)にて簡単にご説明しましたが、ラフの交響曲第10番にはこの基本に則っていない部分があるので(全体構成という視点で見ると、第2楽章と第3楽章が逆転している印象を受けます)楽章ごとに軽く解説しますね。

第1楽章『印象と感情』Allegro Moderato

ヘ短調、ソナタ形式。全体を通じて詩的な美しさや秋の色彩に満ちた構成となっており、詩的なモチーフが上昇したり下降したりするコントラストが特徴です。
また、全体的に情熱を帯びた交響曲第10番の性格からすれば、やや控えめな山場として現れるホルンの旋律が印象的です。
ラフの交響曲の第1楽章は前へ前へと推し進めるような動きをする構成になっていることが多いのですが、第10番も例外ではなく、静かなコーダに向かって優しく田園的な旋律が続いていきます。

第2楽章『幽霊の踊り』Allegro

イ短調で、ロンド形式に準じた構成になっています。
ラフはロマン派音楽の不気味な雰囲気づくりに精通しており、まるで呪文で呼び出すかのごとく、すべての作品に幽霊的な要素を採用しています。
ただし交響曲第10番の場合には悪霊のような異常性は皆無であり、むしろラフが遊びで描いたオバケの絵のような印象を受けます。
やや脅迫めいた導入で始まりますが、弦楽器が織りなすなめらかな旋律に管楽器のさえずりが絡んでいくという彼のトレードマークともいえる手法を用いることで、舞曲や合唱音楽のような旋律が長く続いていきます。

第3楽章『悲歌』Adagio

嬰ハ単調、ロンド形式。
この楽章を作曲している頃のラフは、その人生で最も穏やかで落ち着いており、内省的であったと言われています。
弦楽器の控えめでありながらも長く続くテーマで優しく始まり、今度はその旋律を管楽器が繰り返します。
2つ目のテーマはチェロによる美しい旋律で、そこから次第にフルオーケストラの荘厳な提示へと向かいます。
3つ目のテーマはチャイコフスキーの交響曲第5番の緩徐楽章を彷彿とさせるもので、このテーマが情熱的な山場へと導いていきます。
その後1つ目のテーマが再び現れ、秋を思わせる終盤へと向かっていきます。
この第3楽章はラフが書いた交響曲の楽章としては最後のものであり、彼の交響曲のキャリアを閉じるのにふさわしい作品であると言われています。

第4楽章『狩』Allegro

19世紀には「狩」をテーマにした作品が人気を集めていたと言われており、ラフも当然のようにそうした作品を書いていました。
この楽章は5つの部分から構成されています。
ホルンの旋律から『出発』が始まり、鳥のさえずりや冒頭で現れたホルンのモチーフで構成された『休憩』へと発展していきます。
次第に馬を走らせているようなモチーフが現れますが、これが『狩』に当たります。
それに続く『(狩の際に用いる)合図』は金管楽器をさらに加えた壮大な山場を作り出し、愉快な雰囲気に包まれたコーダの中で冒頭のモチーフが再現されます。

最後まで読んでくださってありがとうございます!

個人的には第1楽章と第3楽章がオススメですが、皆さんはいかがでしょうか?
カップリングされている交響曲第3番も含め、気に入っていただけたらうれしいです。

次回は番外編第2弾。ヨーロッパの音楽の伝統にしっかりと根ざしながらも民族音楽やロック、ジャズのテイストを適度に織り交ぜながら独自の音楽を構築してきたと言われる現代作曲家をご紹介する予定です。
1枚のアルバムを丸ごと紹介するという無謀なチャレンジをしてみようと考えています。どうぞお楽しみに☆
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【参考文献】

「Joachim Raff」http://www.raff.org/index.htm

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