コンテンツエリアでは、電脳音楽塾オンラインサロンに投稿されている有料オンライン講座から、一部をご紹介しています。今回のコラムは、宇宙系バンド「SPEED OF LIGHTS」のボーカルであり、MCやDJもこなすマルチアーティストの「CUTT」が担当。
ENJOY! ボイトレ vol.1 (リップロール1)
初めまして! CUTT(カット)です。僕自身まだまだ発展途上のボーカリストではありますが、なんだかんだでデビューしてから約20年間歌い続け、意識的にボイトレを始めてからも14年が経ちました。この「ENJOY! ボイトレ講座」ではその間に壁にぶつかりながら習得してきたメソッド、また日々のボイトレを楽しく行う工夫などを紹介しながら、皆さんと一緒にステップアップしていきたいと思っています。これから宜しくお願いします!
今日はまず、基本編です。ちょっと話も長くなりますが、初回なので大目に見てくださいね。後半ではボイトレ初歩から使え、上達してからも効力のあるトレーニングを一つ紹介します。
さて、そもそも人類は言葉を話す前から歌っていました。鳥がさえずるように、狼が遠吠えするように。言葉を使えるようになるまでは、声の高低や強弱、声色で意思を疎通する必要があったでしょう。ですから原始の人々は現在の一般的な大人に比べて、声を司る筋肉が発達していたと推測します。人は言語を使うようになってから、どんなボソボソ声でも意思を疎通することが可能になり、声を司る筋肉が衰えていきました。生存に重要でない機能は退化していってしまいます。その点赤ちゃんの泣き声はパワフルです。誰に教えられたわけでもなく、人間の耳が一番敏感だとされる1kHz近辺の響き豊かな泣き声で、声を枯らすことなく発声しています。自身の存在や空腹に気づいてもらえないと、命が危ういからです。
(余談ですが思い返せば自分も、声変わりをするまではとても自由に伸びやかに歌っていたと記憶しています(音程の正確さはともかくとして)。思春期になり、感情を表に出すことが少し恥ずかしいような時期に、僕の天真爛漫な歌声は鳴りを潜め、今も続く発声練習の長い旅が始まったような気がします)
その衰えてしまった筋肉を鍛え、再び柔軟な歌う筋肉を取り戻すこと。これがボイトレの一つの目的だと考えています。そしてその為には、まず長年の自分の発声のくせみたいなものをある程度取り除く必要があります。生まれてからというもの誰に教えられるでもなく言葉を話し、歌うようになった僕らは、だれもが自己流の筋肉の使い方で発声しています。そして多くの場合、自分の得意な筋肉、発声法に偏ってしまっています。
歌う筋肉をサッカーチームに例えて言えば、11人のうち主力選手ばかりが働いて、その他のメンバーはサボっているような状態です。そこを11人全員がそれぞれの役割を存分に果たせるように監督していこうというのがボイトレの狙いです。そしてそのためには、主力選手の働きを抑えることも大事になってきます。
例外もあると思いますが、多くの場合抜本的なボイトレを始めると、一時的に歌が下手になります。サボってた選手はまだ能力が低いのにも関わらず、主力選手は彼らに積極的にボールを回すので、なかなかゴールの枠にシュートが入りません。ただ一度サボっていた選手が目を覚まし出し、元々の主力選手と同等に連携が取れるようになると、見違えるように自由に歌うことが出来るようになります。なので歌いづらくなっちゃったと感じる人も、ぜひちょっと辛抱してもらって、その向こうにある地平を目指してもらえると嬉しいです。
あ!ちなみにボイトレをするのに大きな声を出せる環境が必要なのではないかとよく訊かれるのですが、むしろ小さな声で練習することが初期段階では非常に重要です。今回紹介するメソッドも、小さな声で、どこでもいつでも出来るトレーニングです。
さて、それでは早速実践してみましょう! 今日のメソッドはボイトレの王道中の王道「リップロール」です。
動画を参考に、アラレちゃんのように(古い?)両手の人差指でほっぺたを押しながら、唇をぶるぶると震わせて発声してみください。それがリップロールです。これは呼気(吐く息)の量、強さのコントロール力を伸ばすことができます。
声の元となる呼気のコントロールは非常に重要です。例えば特に男性だとピッチが高くなるにつれ呼気の量も多く、強くなっていき、限界の高さを越えると声帯と周りの筋肉が耐えられなくなって声が裏返ってしまう、というパターンが多いのではないでしょうか?
リップロールで唇の震え(これは声帯の運動そのものを唇で模倣していると考えます)が止まらないように気をつけることで、呼気を一定に保つことができるようになり、ピッチが上がっていってもなめらかにファルセット(裏声)の領域に移り変わっていきます。また唇がブルブルと震えるという事は
唇が閉じて口の中の気圧があがる→
一定の圧を越えると唇が開く→
呼気が口の中から出てしまうとまた気圧が下がり、唇が閉じる
ということの繰り返しですから、ある程度の呼気圧を許容することが出来て、一定の幅の中でコントロールする感覚を得やすいのも利点です。
14年前にボイトレを始めた時に僕が一番衝撃を受けたのがこのトレーニングでした。それまで地声(チェストボイスともいいます)と裏声(ファルセットともいいます)は、決して交わることのない独立した発声法だと思っていたのに、リップロールをすることでその境界がなくなったからです。
まずはリップロールでスケール練習、または好きな歌を歌ってみて、その効果を感じてみてください。高音域から低音域まで、まるで話すように自然に歌えるようになるはずです。また、慣れたら強弱、抑揚を付けて歌ってみましょう。リップロールを保ちながら強く歌おうとしても呼気の強さに頼れないので、体が勝手に声帯周りの筋肉の力で声の圧を出そうとします。これは眠っている筋肉を目覚めさせるのにも良い方法です。
動画を参考にトレーニングを始めてみてください。慣れてきたらほっぺたを指で押さなくても出来るようになりましょう。とても小さな音でもリップロールはできるので、散歩しながらでもいいですし(僕はよくやってました)YouTubeのカラオケに合わせて食器を洗いながら、みたいな感じでもいいと思います。
上手く出来ない人は「唇を強く閉じすぎている(唇はできるだけ力を抜いてください)」「呼気が強すぎる(弱すぎる)」などの原因が考えられます。唇を強く締めても、その分強い呼気圧でもリップロールは出来ますが、本来の効果を出すためにはできるだけ唇の力を抜き、ぶるぶるの速度が遅ければ遅いほど良い、というような感覚で練習してみてください……
*こちらのコラムは、2019/1/7 電脳音楽塾オンラインサロンに投稿されたものです。